実在の人物をAI動画に出すときの注意|肖像・声・規約
生成AIで実在の人物の顔や声を使う動画には、本人の許諾が前提です。2026年8月に法務省が示した肖像・声の解釈指針、広告媒体のルール、動画・音声生成AIの規約、許諾で決めておきたいことを整理します。

実在の人物の顔や声を生成AIで使う動画、または実在の人物に似せた動画を作るなら、本人の許諾を得ることが前提です。「AIで作りました」と表示しても、許諾のない利用が認められるわけではありません。
法務省は2026年8月7日に、生成AIによるパブリシティ権侵害などについての解釈指針をまとめた報告書を公表しました。概要資料では、保護の対象となる「肖像等」に人の声も含まれること、広告に使う場合が典型的な侵害の類型にあたることが示されています。この記事では、2026年10月14日時点で官公庁・広告媒体・各AIサービスの公式ページで確認できたことを、発注する側と作る側の両方に向けて整理します。個別の判断が必要な場合は、弁護士などの専門家に相談してください。
法務省の解釈指針:肖像だけでなく声も対象になる
人の肖像などが持つ、商品の販売を促す力(顧客吸引力)を守る権利がパブリシティ権です。最高裁は2012年の判決で、無断の使用が違法になる典型として3つの場合を挙げました。法務省の概要資料は、これを生成AIの場面に当てはめて次のように整理しています。
- 01肖像そのものを鑑賞の対象として売る(ポスター、写真集など)
- 02商品を差別化するために肖像を付ける(Tシャツ、マグカップなど)
- 03肖像を広告として使う(テレビやウェブの広告、SNSのなりすまし広告)。声では広告のナレーションへの利用が例に挙がっている
生成AIで作った顔や声は本人と完全には同じになりません。概要資料では、本人のものといえるかを、似ている程度に加えて、服装や名前の表示など本人を思わせる情報を合わせて判断するとしています。物まねや声まねは原則として侵害にあたらないものの、見る人が本人だと誤解する場合は侵害となる余地があるとしています。
不正競争防止法についても、著名な人の肖像などを無断で使う行為は、「本人とは無関係です」といった打消しの表示があっても該当しうると整理されています。故人の肖像や声を使う場合も、遺族の感情を害するおそれがあるとしています。
出典
「AI生成」と表示しても許諾のない利用は認められない
広告を配信する媒体も、実在の人物を使った生成AIの広告を個別に制限しています。共通しているのは、AIで作ったと表示しても、本人の許諾がなければ使えないという点です。
- 01Google 広告:公人の名前・画像・動画・声を使い、実際にはない推薦や関係をほのめかす広告を禁止。公人を使う場合は書面の許可を持つよう求めている
- 02Meta:著名人の名前や肖像を偽って使い人を誘い込む広告を禁止。実在の人物が言っていないことを描く写実的なAI素材は、社会問題や政治の広告では開示が必須
- 03TikTok:公人の肖像や声を許可なく使う広告、特に誤解を招く推薦を禁止。AIで作った素材は表示が必要
- 04YouTube:実在の人物に言っていないことを言わせるなどの写実的な改変は開示が必要。AI生成と開示しても、許可のない他人の肖像の利用が認められるわけではないとしている
- 05米国の業界団体IABの開示の指針(2026年8月):本人の肖像や声の無断利用は、開示しても正当化されないと明記
出典
動画生成AI・音声生成AIの規約と機能での制限
動画や音声を作るAIサービスの側でも、実在の人物の扱いに制限や条件があります。
- 01Seedance 2.5(BytePlus):実在の人物の顔を含む画像や動画からの生成を技術的に制限している。審査を受けた法人の利用者は、本人確認と肖像の許諾を済ませた人物に限って使える。1万点を超える架空の人物の素材も用意している
- 02Higgsfield:氏名・肖像・声を含む素材には必要な許諾を得ていることを利用者が約束する規約。同じ人物の写真から作るキャラクター(Soul ID)に使えるのは、本人か許可を得た人の写真だけ
- 03Kling:入力する素材の権利を持つか、権利者の許諾を得ていることを利用者が保証する規約。なりすましは禁止
- 04Google(Gemini API):欺く目的で、開示せずに実在の人物になりすますことを禁止。Gemini Omniは、一部の見分けがつく人物を含む画像のアップロードと編集に対応しないと案内している。欧州経済領域・スイス・英国では未成年を含む画像にも対応しない
- 05ElevenLabs:生きている人の声を、本人の明確な同意なしに複製することを禁止。精度の高い声のクローンは、声の持ち主本人が読み上げて確かめる手順がある
規約はサービスごとに頻繁に改定されます。使う時点の規約を確かめ、許諾の記録を残しておきます。
出典
社員や実在のモデルを出すときに許諾で決めておくこと
社長や社員、依頼したモデルなど、本人の了解を得て実在の人物を出す場合も、何に同意してもらうかを具体的にしておきます。日本でAI生成向けの同意書の公的な雛形は見つかりませんでした。音声の業界三団体は2024年11月に、私的な利用を超える場合は本人の許諾を取ること、1回の支払いで無期限に使う契約ではなく案件ごとに契約すること、AIで生成したと明記することを求めています。これらを参考に、少なくとも次の点を書面で決めておくと、後から食い違いが起きにくくなります。
- 01使うもの:顔・全身・声のどれを使い、どの写真や録音を素材にするか
- 02AIでの加工の範囲:表情や動きを生成してよいか、言っていない台詞を話させてよいか
- 03使う場所:どの動画に、どの媒体(SNS、広告、LPなど)で、どの地域で使うか
- 04期間:いつまで公開し、退職や契約終了のときにどうするか
- 05素材の扱い:素材や作ったキャラクターを保管する期間と削除の方法、ほかの動画に流用してよいか
FablessBridgeの自社制作サンプルでしていること
FablessBridgeが公開している自社制作サンプルの人物は、すべて画像生成AIで作った架空の人物で、事例ページにもそのことを書いています。たとえばスマートアイマスクの「宵寝」では、CEOと看護師の候補を3人ずつ生成して選びました。
「ノートの落書きが映画になる」では、動画にする前に生成した画像25枚を見直し、主人公の顔が見えた2枚を影に沈めて作り直しました。同じ見直しで、車に出た実在の自動車メーカーの紋章を消し、既存の怪獣に似ていた怪獣を独自の姿に描き直しています。生成AIは指示していない実在の形を描くことがあるため、動画にする前の静止画で確かめるようにしています。
依頼を受けて制作する場合も、完成した動画にはAIで生成した素材が含まれるため、公開の前に依頼する会社の法務担当の方にも確認をお願いしています。
発注する前に確かめること
- 01動画に実在の人物(社員、モデル、著名人)を出すか、架空の人物で作るか
- 02実在の人物を出すなら、本人の書面の許諾があるか。顔だけでなく声も含めて確かめる
- 03有名人に似た顔や声、有名人を思わせる名前や衣装が入っていないか
- 04使うAIサービスの規約で、実在の人物の素材を入力してよいか
- 05広告に使うなら、配信する媒体のポリシーに合っているか
制作のご相談
企画が固まっていない段階からご相談いただけます。
お問い合わせ料金と制作の流れを見る



